彼女
「ねぇ、きいてくれる?」 彼女は、おれが眠ろうとすると、いつもこう話し掛けてくる。 「今日ね、彼がね・・・」 けれど、その話の内容は、きまって『彼』の事。 「きみはどう思う?、彼の事」 おれには関係ないね、そう言ってやりたいけど、 一応関心のある振りをしておかないと、後が恐い。 (いいんじゃないの)と曖昧な意思表示をしておこう。 「そう、よかった」 そう言った彼女の笑顔は、とても綺麗だった。
トゥルルルルル、トゥルルルルル、トゥルルルルル、・・・ (お〜い、電話だぞ) 「ん、わかってる」 彼女は最近、元気がない。 電話を取って、しばらく話しをしていたようだが、突然青ざめて、後は 「どうして?」 を繰り返すばかりだった。 やがて、彼女は受話器を落とすように置いた。まるで手の力が抜けたように。 受話器を置いてからも、しばらくはそのままの姿勢でじっとしている。 (どうしたんだ?) そばに寄って、そう問いかけてもただ首を振るばかり。 その頬には、涙が伝っていた。
「ねぇ、きいてくれる?」 彼女は、おれを抱きかかえたままで、小さな声で話し掛けてきた。 「今日ね、彼にね、・・・ふられちゃった」 (ふむ、なるほどね) 「きみはどう思う?」 (関係ないね、おれには) 「冷たいんだなぁ、きみは」 (どうでもいいが、腹減った) 「わかった、わかった。・・・あたしもヤケ食いしようかな」 そう言った彼女の微笑みは、ちょっぴり悲しげだった。
猫を飼う、と人は言うけど、実は飼われているのは人間の方じゃないか、 彼女はそう思った。 人が落ち込んでようが、腹が減ったと餌を要求してくる。 身勝手で奔放な、猫。 猫になりたい、彼女はそう願ったが、結局その願いは叶わなかった。