「誘いのデザイン」

誘(いざな)う・・・ちょっと甘美な言葉ですね。
自邸へとお客様を誘う・・・
その場所こそが玄関であり、
アプローチと呼ばれる導入部です。

   

最近では建て主さん自身が、以前よりもずっと「玄関」という 場所 について
より 具体的なイメージを持って頂いているように思います。
   ●広い土間があるホールへ、2階から滑り台で登場したい。 (施工中)
   ●ご近所の方と、ちょっと腰掛けてお茶飲み話をしたい。 (施工済み)
   ●わんぱく盛りの男の子3人兄弟が直接洗面所に行けるように。 (計画中)
などなど。あるいは「玄関は無くてもいいです。」とおっしゃった方もいました。

しかし、「アプローチの演出」についてはまだ、 意識は行き届いていないでしょうか。
「誘いのデザイン」とも言うべきアプローチの演出法、そこに意識を向けるということは
《我が家の個性》を表現する、最初のポイントを しっかりと踏まえることだと思うのです。

では、何を考えればよいのでしょう。
「門(玄関)は家の顔」と言う人がいます。明るくて誰もが立ち寄りたくなるような・・・
という曖昧なイメージからか、最近 『オープン外構』 を希望される方が増えています。
たしかに「つい寄りたくなる家」と言われるのは大変素敵なのですが、
<反対の側面から考えること> < 実際に住んだ場合を考えること> 
忘れて欲しくないなぁ と感じていたりします。
見た目の印象だけで判断してしまっていないか、ちょっと考えてみてください。

『オープン外構』とは、自分の家の敷地と道路との間に門や塀を作らずに、
床の仕上げや 植栽による区別をするだけで、きっちりとした切り替えの形を持たない
外構のことを言います。この場合、「玄関ドアの前に立って初めて相手の存在を知る」
ということが少なくありません。
私はこの点がとても重要なことと思い、大変気にかけてお話させてもらっています。
玄関の前に立ってあなたに呼びかけてくる相手は・・・必ずしも喜ばしい相手だけでは
ありませんよね。 招かれざる客にまで、「ここは入りやすくていい家だなぁ」という
好印象を与えていて良いのでしょうか。

事例その1:一見大人しそうで親切そう、なのに押しが強い宗教の勧誘。
       (どんな断られ方からでもそこから自分の宗教の良さに繋げるテクは拍手)
事例その2:とぼけて 「ビール券もらった〜?」と気軽に話し掛けてくる新聞勧誘。
       (ビール券やら洗剤やら、モノで釣れると勝手に決めつけていて腹立たしい)
事例その3:天災被害や身体の不自由な方・施設にいる子供達のためetc
        人の心のヒダをえぐるポイントを徹底的に攻めてくる偽善者詐欺。
       (希に本物もいます。詐欺師は安そうなタオルを3千円で売りつけたりする)

これはほんの一例に過ぎませんが、似たような人々にお心当たりはありませんか?
このような場面で、きちんとお断りできる術は身についていますか?

   

キレイな薔薇には棘がある。
棘の処理法を習得しないとね

(刺さらないようどうするか、
 刺さったらどうするか。)



私は現在の自宅の設計にあたり、敷地が狭いことや事務所兼用であることもあって
このオープン外構を採用したのですが、想像していたよりもずっと多くの
「招かれざるお客様」の訪問を受けてしまう結果となりました。
私の場合は情に流されることもなく、不要な物や信念に反する事柄には
一切耳を貸さない性格なので現在までは大きな問題には発展しておりませんが 。

それでも、私がちょっと外出している隙に怪しい小冊子がデスクに載っていたり、
知らない試供品の薬が薬箱に入っていたりします。(知らない薬は怖いですよねぇ)
スタッフ諸氏は、私ほど冷酷にはなれないみたいです。

家に対するイメージや思い描いている理想の形と、その空間での具体的な
日常生活のパターンは切り離して考えてはいけないと思います。
 ★ 雑誌で見た建築家の設計した家がイメージにぴったりだったから真似した
 ★ 展示場のモデルハウスがものすごく気に入ったからそっくりそのまま建てた
それが100%いけないとは言えませんが、(たまたまうまくいくことも全くなくはない)
決定する前に自分の生活と照らし合わせてみて、問題がないことが確認されなければ
どんなに見た目のいい家も「住み良い家」にはならないでしょう。
「見せる動線」と「生活を楽しく快適にする動線」に折り合いをつける必要があるのです。


外構に戻りましょう。
どこかで見かけたオシャレな『オープン外構の家』がうらやましく思えたとしても、
生活している人は何を感じているのか、自分がそこで暮らしたらどんなことが
起こり得るであろうか、一度、頭の中で シュミレーションをしてみましょう。
オープン外構を採用するからには、 さまざまな相手や状況に対して
有効な予防法と対処法を身につけておくべきなのです。

アプローチの演出=「誘いのデザイン」 は外部から見た印象ももちろん大切ですが
《我が家の個性》を表現しつつ、家族が暮らしやすい形をしっかり押さえて欲しいもの。
デザイン性と機能性、どちらか一方を取るのではなく、 両方が共存共栄してこそ、
真のデザインと呼べるのではないでしょうか。


私の、「招かれざる客」 予防法を1つご紹介。
うれしい来客がある時は「どうぞ。いらっしゃいませ!」と誘うように鉢植えのお花で誘導。
それ以外では、チャイムを隠すように大きめの植木を置き、鉢植えを障害物のように配置。
これだけでも入り難い印象に変わるのですから、デザインっておもしろいんですよね。


F建築ファーム
西野 麗子