K氏のラリー必勝講座

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この物語は、かつてFM東京系(FM大阪、FM愛知、FM福岡)で放送されたあるラジオドラマをその時に聴いた記憶だけを頼りに再現してみました。

 

 大学のラリー部に籍をおく明日香は、今度開催される日本モンテカルロラリーを心待ちにしていた。しかし、一緒に出場するはずだった恋人の星野は、今度だけは優勝したいと優勝経験のある大学の先輩と出場する事を決めてしまっていた。

明日香

「星野君、今度の日本モンテカルロ・ラリー頑張りましょうね」

星 野

「うーん、実はその事なんだが、今度のラリーは大学の先輩と出場する事に決めたんだ。今度はどうしても優勝したいんだ。だから今回だけは諦めてくれないか」

明日香

「そんなあ。私とじゃ優勝できないって言うの。いいわよ。それなら私だってどこかでドライバーを見つけて一緒に出場するから」

星 野

「やめとけよ。今度のラリー、即席で勝てるほど甘いレースじゃない」

明日香

「あなた達だって即席じゃない!」

星 野

「先輩はこのラリーで何度も優勝した事もあるし、それに先輩が大学時代に僕がナビをして出た事もあるんだ。だから、悪いけど今度だけは……」

そう言って去っていく星野の後ろ姿を見ながら、明日香はつぶやく。

明日香

「もーう、星野の奴。いったいどういうつもりよ。目にもの言わせてやるんだから。覚えてらっしゃい」

 怒った明日香は、ジムカーナー会場で見つけた笠原 剛というドライバーを見てピンとくるものがあり、彼を相棒に選んでようやく出場にこぎつけた。ところが、この剛というのがなんと、ものすごい飛ばし屋で、スタート早々暴走族と競り合ってカーチェイスはやるは、あげくの果てに山の中へ逃げ込むはで、ラリーの優勝どころではなくなった。ようやくコースに復帰したものの大幅な減点は必至の状態。

「俺達、遅れてるんだろ」

明日香

「そうね。ざっと1時間ってとこかしら」

「だろうな」

明日香

「なによ。あなたが暴走族と競り合って山の中に逃げ込むからよ」

「そうだな」

明日香 「でも安心して。このレースは最初のロスタイムが次に加算されない区間独立方式だから、残りの区間を頑張ればいいのよ」
「へえー、あとくされの無いルールだな」
「だけど、コースアウトした分の修正はどうするんだ」
明日香 「問題はそこなのよね。でも、コースアウトした地点とコースに復帰した地点の距離からロスした距離はなんとかだせそうよ。あとは指示書の距離と実際に走った距離から誤差を修正する修正表が作ってあるから大丈夫」

やがてレースも中盤を迎え、空が白み始めていた。

明日香

「あ!そこの火の見やぐらを左折して、速度は32kmに落として」

「はいはい。時速32kmっと」

明日香

「もう、真面目に運転してよ」

明日香 「あー!いけない。一つ目の火の見やぐらで速度が38kmになってたわ」
「えー、ほんとかよ。どれくらいロスしたんだ」
明日香 「ちょっと待って。今、計算するから………ざっと3分20秒の遅れだわ。剛!飛ばして!」
「よーし、そうこなくっちゃ」
明日香 「あっ、でも人の飛び出しには気をつけてね。それと法定速度はちゃんと守って」
「そんなのありかよー。それにこんな夜中に人なんて……」
明日香 「あっ!危ない!」

<キキキキーーーー> 路地から飛び出してきた自転車に思わず急ブレーキを踏む剛。

「ふー、危ねえ。間一髪だったぜ」
新聞配達 「すみませーん」
明日香 「いいえ、こちらこそすみません」
「おいおい、飛び出してきたあいつの方が悪いんだぜ」
明日香 「こんなところで事故を起こしてラリーを棄権するよりはマシでしょ」
「明日香、大分取り戻したかい?」
明日香 「そうね、あと1分くらいの遅れかしら」
「おい、人が立っているぞ」
明日香 「チェックポイントよ。あーん、どう計算しても1分は遅れてるわ」

<ブロロロローーーー>車を降りてCPを受けに行く明日香。

明日香 「遅れてごめんなさい。私たちどのくらい遅れてます?」
大会役員 「悪いけど教えられないんだよね、お嬢ちゃん」

明日香がCPを受けて車に戻ってくる。

「俺たち遅れてるって?」
明日香 「そんなの教えてくれないわよ」
「だろうな」
やがてレースは山道へと入っていく。

「お?あれは前を走っている車のテールランプじゃないか?よーうし」

明日香

「あの車に追いつく必要はないのよ。そのままの速度で走って」

「あー、こうのんびり走っているとコーナーを攻めたくなるぜ」

明日香

「やめてよ」

「あー、じれったい。ラリーなんて考えたの、いったいどこのどいつだよ」

「おや?誰か立っている」

明日香

「チェックポイントよ。そのままの速度で入って」

チェックポイントを受けに行った剛があわてて戻ってくる。

「ここでレースは終わりだってさ。何でもこの先、ラリーの禁止県に入るんだって。明日、レセプション会場で表彰式があるそうだ」

そこへ前にチェックした車から人が近づいてくる。

星 野

「おや、僕ちの後ろを走っていたのが君たちだったとは」

明日香

「えー、星野君のカーナンバーが3番だから、レストタイムを差し引いても私たち1時間以上も、差を詰めたって事なの?」

「おい、明日香!俺達遅れてたんじゃなかったのかい」

明日香

「そんなあ」

「君はとんだナビゲータだったな。でもまあ、色々あったけど結構楽しかったよ」

明日香 「ありがとう。そう言ってくれると少しは気が休まるわ」

星 野

「まあ、夜があけたら表彰式があるから、それまでレセプション会場に戻ってレストハウスで一眠りするといいよ」

場所は、レセプション会場に移る。

司 会

「まず最初にジムカーナーの優勝者の発表です。優勝、ドライバー笠原剛!」

明日香

「剛、おめでとう」

星 野

「笠原君、おめでとう。このコーナーの優勝は君だと思ってたよ」

「まあな。しかし、そう考えてみるとラリーっていうのは難しいもんだな」

司 会

「続いて日本モンテカルロラリーの表彰式に移ります。第3位………………………、第2位、カーナンバー3番、ドライバー星野哲郎。ナビゲーター……………減点10。お二人には賞金…………が贈られます」

明日香

「剛、ちょっとおかしいと思わない」

「何が?」

明日香

「だって減点が多すぎるもの」

「そんなものなのか?」

明日香

「そうよ。今回みたいなコンデションのいい日なら減点ゼロでもおかしくないわ」

司 会

「さて、いよいよ優勝者の発表です。第1位、カーナンバー90番、ドライバー笠原剛、ナビゲータ……明日香。お二人の減点は3です」

星 野

「ちょっと待ってください。抗議します。昨日のレースではスタート直後に暴走族の事故で大渋滞が起きて私たちは大きな被害を受けました。彼らの減点からすると二人は第1CPで正解時間を出していたと思われますが、レースの出場者が暴走族以上の暴走行為をしていたとすると問題ではありませんか」

観客A

「おい、抗議だってよー」

観客B

「えー、優勝はもう決まったんじゃないのー」

観 客

「ざわざわざわざわ………」

司 会

「えー、お静かに。この件につきましては、大会役員からも同じような意見が出ましたが、二人の車は渋滞のすぐ先のブラインドCPを正解時間で通過しています。二人は渋滞を回避しています」

「おい、明日香!俺達、第1CP正解時間だって」

明日香

「剛、あれよ、あれ。あなたが暴走族と競り合って山道へ逃げた。それが渋滞回避になったのよ」

「暴走族さまさまだぜ」

星 野

「それにしても明日香、それでよく修正タイムを出せたもんだ。どうだろう、今度の日本サファリ・ラリーは僕と組んでくれないかい」

明日香

「駄目よ。私、今度のラリーでわかったの。レースで優勝できなくてもいいから、お互いの欠点をカバーしながら二人で楽しくやっていく事が大事だって」

「明日香、よく言った。ブラボー!」

星 野

「どうやら僕は人生最大のミスを犯してしまったようだ」


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